「●●さーん!」それが迷惑な人もいるという“ホスピタリティ”の考察。
2016年 08月 09日
“ホスピタリティ”って?
この10数年、サービス業界では頻繁に出てくる単語で、ラテン語の「hospes」=「客人の保護」が語源だ。
保護。
サービス業においては、「お世話をする」とか「もてなす」という意味で使われているが、本来は「客人の保護」であるということを、アロマテラピーやメディカルハーブの世界ではしつこい程に学ぶ。テストに出るくらい。
参考資料:サービスとホスピタリティの違い
http://www.hospitalitybank.com/3-consept.html
「●●さーん!」
それが迷惑な人もいる。というのが今回のテーマ。
シティホテルや高級レストランのスタッフなどではお馴染みのジレンマだが、2回目の女性連れのお客さんに「先日はありがとうございました」といきなり挨拶しない方がいいことが非常にしばしば(very often的な)ある。お連れの女性が前回と違う人で、このお2人の間では「初めて来たお店」ということになっている場合があるから。
スタッフとしてはすぐに挨拶に飛んでいきたいが、そうもいかないジレンマだ。
私の親しい知人女性(欧州)が、自分で立ち上げたサービス・商品で有名になり、この数年メディア上では芸名(いわゆるスクリーンネーム)で活躍している。
※昨日アップしたスウェーデンの歯医者に連れていかれた女性(笑)とはまた国も年も違う人だ。
祖国に帰ると、飛行機の中(時にはC.A.)から空港職員、デパートの店員さん、病院スタッフからも「ファンです」と声をかけられる程になったそう。
最近では、空港の手荷物検査の行列に列んでいたら、男性警備職員から「あなたのような女性は列ぶ必要はない」と横のドアから通してくれたらしく、飛ぶ鳥さえ信号待ちする勢いだ。
彼女は本名を名乗っていない。プライベートに関することは一切公開しないと決めている。
立ち上げ当初に相談にのった私のススメから。
会社が有名になる分にはいいが、個人がカリスマ的に人気が出ると、必ずプライベートを追いかけ回され、特に女性は危険だから芸名かつプライベート(年齢、家族構成、学歴、趣味、生活圏など全て)非公開をすすめた。
実際、その業界では個人情報の漏洩(多くの場合、仕事上知り合った顔見知りから漏れる)からあること無いことデマが流され、家族やパートナーにあらぬ疑いをかけられ、時には身の危険を感じ、疲れ果てた挙げく廃業する人も多いハリウッドさながらの激戦区(消費者側もソレに疲れている)なので、事を始める前段階から相談を受けていた。とても賢く慎重な女性だ。
祖国でタクシーに乗るのも怖くなったらしく、住まいと本名がバレる可能性を心配している。特に空港に向かうタクシーでは、荷物を見れば運ちゃんにしばらく家を留守にすることがわかってしまうから、同居人(がいることにして)に「そういえば、冷蔵庫の●●早く食べて」的なことをタクシーの中から電話(するフリを)したこともあると言う。
実際タクシーの運ちゃんに「お仕事柄●●も大変ですよね」と、明らかに自分を知っているんだなということを言われた事もあるそうだ。その一言がキモチワルイ。
彼女は立ち上げから1年もしないうちに、ある有名企業から本社オフィスに招待された。その際、現地の大企業が入るオフィスビルは1階でパスポートチェックをすることが多いため、そこから本名が漏れるんじゃないかという相談を受けた。
私は先方がどういうつもりなのかもまだわからないので、「初回はカフェやレストランで会うといい」とすすめ、実際にそこで意気投合、話しもまとまりうまくいったが、永続的に本名を隠し通すのは非常に難しい。どこかのタイミングで秘密保持契約を結んだ上で取引(サイン)するしかない。
/*
取引額が小さいうちは、日本ほど契約書や請求書などの事務手続きを必要としない分、しばらくはこのまま(ギャラ手渡し)で何とかなるかもしれない。ただし銀行口座番号を渡せば本名がわかるので、本気で隠し続けるなら、ゆくゆくは事務所や会社の設立を検討した方がいい。
*/
まぁ、彼女が心配しているのは、実際に取引するわけではないビルの職員や、契約合意に至らなかった場合の担当者などそのまま縁が切れた人達に対してだ。お互いに利益があるうちは信頼できても、担当者が「契約を逃した」と会社から責任を問われたり、余所と契約したり競合したりする可能性が出てくると事態は急変する(ことが多々ある)。「逆恨み」のようなもの。
そして1年程前、(現地で)「数年ぶりの友達と会うの」という話しが出て、私はすぐさま「一緒に出かけるのはやめた方がいい」と伝えた。静かな美術館などならいいが、騒々しいところで会うのは特に止めた方がいい。大きな声で名前を呼ばれる可能性があるからだ。
彼女は納得した上でその友人と静かなカフェのテラスで会うことになったが、待ち合わせの時間よりも早く到着したため、近くのデパートに入りブティックを見て回っていたところ、「●●ちゃーん!●●ちゃん!こっちこっち、●●ちゃん!久しぶり!」とまるで館内アナウンスくらいはっきり聞き取れる大きな声で、本名を連呼されたらしい。その友達も早く到着し、同じようにデパート内をうろついていた。
残念ながら(本当は嬉しいことだが)、数分もしないうちに、同じフロアの2人の女性スタッフに「ファンです。一緒に写真撮ってください」と頼まれたそうで、名前がバレてしまった可能性が高い。
※そこで機嫌を損ねて、ファンを冷たくあしらうと更にリスクが高まるので、笑顔は絶やせない。どんなシーンでも怒らずに一旦飲み込むように伝えてある。
落ち込んで電話してきた彼女に、もう一度心構えの再確認をした。
久しく会っていない友達や親族は、人前で名前を呼んじゃいけないことを知らない。そして彼女は、身近な友達にも何も話していないため(知らない方が問題が起きないから)、顔を見たら名前を呼ばれる可能性の方が高い(ソレが当たり前の)つもりで生活しなければならない。相手は何も悪くないのだから。
こういった場合、他人と一度でも行ったお店などに、例え一瞬であっても立ち寄るべきではない。スタッフが名前を覚えていて名前を呼ばれる可能性もあるし(冒頭のジレンマに通ずる)、銀行窓口や病院でも名前を呼ばれる可能性が高い。
※日本の銀行窓口は予め「呼び名」を指定すれば、その通り呼んでくれる。
そこで親族や友達との関係と、自分の仕事の優先度で思い悩む人が多い。
「100」のうち「20」教えて、残り「80」は“話せない”は止めた方がいい。ほぼ間違いなく「私を信用しないの?」と言い出し関係がこじれるから。だから私は「何も教えない」(今どんな仕事をしているのかも含め)をすすめている。何か漏れたときに、あの人かもこの人かもと疑うよりは、何も知らない(教えてない)方が親しい人・身近な人を真っ先に除外できていいし、相手に失敗させずに済む。自分のことじゃないから、わかっていてもつい名前を呼んでしまったりということは十分に考えられるからだ。
こういう精神性(心構え)を学ぶ際に、「諜報員(スパイ)のジレンマ」を参考資料にしている。「部分」ではなく「全体」を見る必要がある。そして自分だけでなく、携わる人全員が理解していなければ信頼関係は成り立たない。
彼女もこの先更に有名になれば、いずれ友達の目に触れたり、しばらく音沙汰無かった人から連絡が来たりと、また違った悩みを抱えることになる。これは人生のステップであり避けては通れない。
/*
また別の欧州女性から、似た話を聞いたことがある。彼女はとても気難しい仕事に就いていて、あるパーティーに指定された名前で参加しなければならなかった。当日大雨でタクシーが捕まらず、親戚が会場まで送ってくれることになった。事情を説明した上で名前を絶対に呼ばないでと頼んだそうだが、車を降りてしばらくし、後ろから大きな声で名前を呼ばれたそう(笑)。本人は慣れているのでそのまま振り返らず中に入ったそうだが、車内にあった電話を、彼女が忘れていったものと勘違いして慌てて呼んだらしい。でもその電話は彼女のではなく、送ってくれた親戚のものだったというそそっかしい話(笑)。その親戚はとてもいい人らしく、いい人であるがために、自分の失態を恥じて、その後1年くらい鬱状態になったのを見て、彼女も申し訳なくて鬱になりそうだったと語っていた。
このように否応なしに責任を共有することになるため、周囲にそれを背負わせないためにも、「何も話さない」が最善の“戦略”であることが多い。それもまた、部外者の保護ということで「ホスピタリティ」と言える。
*/
日本で言うと、迎車タクシー(芸者タクシーじゃなくて)もなかなかヒドイ(笑)。
私は事前に行き先とコースまで電話で伝えるが、車に乗り込む前に名前の確認、乗ったら運ちゃんが行き先とコースを復唱するもんだから、女性を内緒のレストランに連れて行くなんてサプライズはできない。
もっとヒドイ日本交通(笑)は、タクシーアプリで呼んでクレジットカード承認も済ませた上で待っていると、乗車時に当然名前を確認され、車内で「確認番号(4桁)は?」(初回に設定する暗証番号のようなもの)と聞いてくる。同乗者に聞かれるし(笑)。ATMなどの暗証番号と同じ4桁にする人が多そうだから、口頭での受け渡しはよくない。運ちゃんによっては自分から「番号はNNNNでよろしかったでしょうか」と聞いてくる(笑)。しかもよく見たら無線機にその4桁が表示されているし(笑)。セキュリティも何もないし、聞く意味もない。
重要なシーンにおいては、タクシーは呼ばずに、無作為に拾って乗った方がいい。鉄則だ。
私も何度か(相手都合で)本名でない名前でホテル、レストラン、スパを予約したことがある。予約代行も含めて。当然支払いは現金払いになる。
ここでの名前は何だっけと思い出すのも面倒なので1度しか利用しない。その反対も同じだ。行きつけのお店で「今日は▲▲と呼んで」と頼んでも、必ず本名を呼ぶスタッフがいるので、人的リソースには頼らない方が間違いがないし、失敗した時に他人を責めずに済む。
※ちなみに政府の諜報員でさえ名前は3つまでとしている。
味方も信用しないのかというとそういうことではなくて、ジャンルを問わずレッスンやトレーニングを受けていない人に高い水準の仕事を頼むべきじゃないし、勝手に期待しちゃいけないということだ。
半田ごてを触ったことがない人に半田ごてを持たせたら間違いなく火傷し、半田ごてをもたせた側の監督責任が問われる。免許を持ってない人に車を運転させちゃいけないようなものだ。特定の法律がない分野は各自判断するしかない。ネットワークセキュリティともなると尚更だ。
/*
彼女のマックノートのセットアップは私が行った。アンチウイルスやファイアウォールの設定はもちろん、盗まれた時のために、内蔵ディスクの暗号化と、ファームウェアパスワードの設定、リモート消去オン(取り返さずに自滅させる)をし、SNSアカウント用のメールアドレスと、取引用のメールアドレス、その他の登録用メールアドレスを全て分けている。また、出先のWi-Fiはできるだけ使わない(スマートフォンでテザリング接続)、やむを得ず使ったら家に帰りパスワードの変更をするように伝えてあり、守っているようだが、そこまでパソコンが得意な人ではないので、結構「大変」な様子だ。
カメラから写真や動画にGPS座標が埋め込まれるため、スマートフォンのGPS利用も全てオフにしている。
*/
ま、本当はサービス業(せめて高級店)はそろそろそういう訓練も取り入れた方がいいと思うんだが。そのためには冒頭の「客人の保護」の意味から理解する必要がある。
これらは「悪党」が身元を隠さなきゃいけない理由で隠そうとする際の利便性(秘匿性)の話しではなく、自分の意思でビジネス上そうしたいという理由で隠したい場合の話しだ。まさしく芸能人などが該当する。
有名人とは必ずしも「顔(面)」が割れているわけではなく、名前やニックネーム、或いは著書タイトルなどが有名という場合もあるので、「個室」を用意すれば(顔を隠せば)一件落着とは行かない。会話中に出てくる何が個人情報になるかわからない。
また、自分は見た事がなくても、特定のジャンルにおいて超有名な人かもしれない。私が知る限り、不特定多数の10万人のファンを抱える芸能人と、特定のジャンルの熱狂的1万人のファン(支持者)を抱える人は、同じか後者の方が目立つ(声をかけられる頻度が高い)ように思う。業界のカンファレンスなどでは尚更だ。
結局のところ、誰か失敗するんじゃないか、ついうっかりやってしまうんじゃないかと心配したり疑ったり、或いは実際に失敗したときに責めたり、または信じた自分がバカだった自己嫌悪に陥ったりするよりも、初めから失敗させない策を講じるべきだ。この場合、名前を呼ばれちゃいけない場所に他人と行かないことだ。自分の身は自分で守る。
まとめ
ホスピタリティとは、まずゲスト(客人)が何を気にしているのか、何に対し神経質になっているのかを知る必要がある。
私から見た日本のソレは、客人の保護というより介護に近い。自分にできないことをしてくれるから「保護」なのであって、自分にもできることをアレもコレもしますという家事代行、妻代行のような、身の回りのお世話が「おもてなし」の主流だ。スパではお風呂同様の場所であるにも関わらず、あまりに構われるものだから、まるで老人ホームにでもいるかのような気分になったことさえある。
また、料亭のような伝統的な「和」を受け継ぐサービスにおいては、あなたがこの部屋にいる限り、次の一言が発信できないのだが(だから早く行って)と言いたくなるくらい、話しが中断したままなのにも関わらず、付きまとうようにずっとそばにいる(ことが多い)。
オリンピックに向けて、2人の時間、家族の時間を大切にする外国人客が増えるにつれ、本当に日本の「おもてなし」がウケるのだろうかと心配だ。
近年の日本は、「ゴミ拾い」と「トイレが綺麗」くらいしか褒められている記事を見聞きしたことがないのも懸念事項だ。
せっかくのオリンピック、是非とも成功を収めていただきたい。
私はサイバーセキュリティー分野で客人の保護を担えたらと思っている。
続編予定あり。
チャーリー(@)
JAPAN MENSA会員
AEAJアロマテラピー検定1級
AEAJ認定アロマテラピーアドバイザー
AEAJ認定環境カオリスタ
AEAJ個人正会員
JAMHAメディカルハーブ検定1級
JAMHA認定メディカルハーブコーディネーター
■チャーリーのタンブラー(毎日更新、日記・ブックマーク的な)